(スーパーひたちにて隅田川を越える)
北帰行第一日目は北千住までだったが、ここから荒川を越え、小菅を過ぎ松戸の先まで到達した。
大学生で旅立った日は、日記によれば某年9月1日だったようだ。その当日の昼にJRのみどりの窓口がある駅まで切符を買いに行っている。上野に着いたのは夜8時半頃だったようだ。途中に通り過ぎた水道橋では車窓から後楽園球場のナイター照明が煌々と夜空を明るく照らしていたのが、独り旅の寂しさをひとしお強くさせたと日記にあった。あの当時はまだドームでは無かったのだ。
乗ったのは特急ゆうづる3号。大学時代の独り旅で特急に乗るのは初めてだと日記にあった。周遊券では追加料金無しで乗れるのは急行自由席までだったからだ。列車が走りだして、東北出身らしい車掌の車内アナウンスで列車名を「ゆうじゅる」というのがおかしかった。
北海道旅行の出発日はもう辺りは真っ暗だった筈で景色など憶えている筈もない。常磐線は会社に就職したのち、景色を初めて知ることになる。殆どがスーパーひたちからの眺めだ。隅田川、荒川、中川、江戸川と橋を渡って越えてゆく度に景色がどんどん鄙びてゆく。
荒川を越えたところが小菅だ。あの有名な東京拘置所がある。拘置所は刑務所ではなく、裁判前の被疑者の勾留と、死刑囚の執行待ちが主な役目だ。従って有名どころの死刑囚が収監されている。オウムのあの人たちなどだろう。
(東京拘置所)
小菅の東京拘置所は江戸時代からある刑場の跡だとずっと思っていた。しかしそれは小塚原(こづかっぱら)というところで、遠くはないが別の場所だった。南千住のほうに近いらしい。
三回前の京都旅行の際に東本願寺の地下展示場で、林真須美などの死刑囚たちの作品展示を観た。芸術作品というより、遺物展示みたいな気がした。心にぽっかり空いた暗闇を見つめているようで、不穏な気持ち無しでは見つめられない。作品を説明したパンフが置いてあったが、引き摺りそうな気がして手を出すのは止めておいた。