山の神トンネルの暗闇をおそるおそる通り抜けるとぱあーっと明るい眺望が広がる。その山の稜線を観た途端に遥か昔の記憶が蘇ってきた。まだ二十歳になる前だったが、年上の青年たちに連れられてやって来て初めて野性の鹿を目撃した斜面だった。初めて潜ったと思っていたトンネルは数十年前にも来ていたのだ。当時は車で通り抜けていた為に同じ場所とは気づかなかったようだ。
途中に沢から湧き出ているらしい泉から出来た小さな滝がある。その更に先に少し広い場所があって、その場所は嘗ては製材所だった記憶が蘇る。その片鱗も残っていない。
更に登っていくとまた別の記憶が蘇ってきた。そこは嘗てキャンプ場だった場所で子供がまだ小学校にあがったかどうかぐらいの頃、山の斜面にあったバンガローに停まった覚えがある。トンネルを車で通り抜けて製材所だった場所に駐車したことを思い出した。すっかり記憶から抜け落ちていたのだ。キャンプ場だった片鱗も全く残っていなかった。
