函館は路面電車のある街だ。あまり考えずに歩きだして最初の停留所を通り越してしまっていたことに気づく。仕方なく次の停留所まで歩いてしまおうとしたら15分も歩く羽目になってしまった。
ガイドブックを見て市役所前という停留所から十字街というところを目指そうと路面電車に乗り込んでみると、均一料金であることを知り、それならば終点の谷地頭という所まで一気に乗ってしまうことにする。
そこから立待岬という場所を目指していくことにする。ガイドブックを観ながら歩いていると「一人旅かい?」と後ろから声を掛けられる。振向いてみると松方弘樹そっくりの人物だった。松方弘樹は亡くなったのは最近だが、この旅行は40年ぐらい前の話なので、まだ精悍だった若者の時期の松方だ。北海道で初めて話した土地の人である。
「立待岬に行くんならこっちだ。俺もそっちの方へ行くんで。」と一緒に並んで歩き出した。途中で「ちょっと」と道端の店に入ったかろ思うと焼いた玉蜀黍を二本買ってきたようで一本を差し出して「やっぱり北海道来たら、唐きび食べなくちゃな。」と言って奢ってくれた。更には酒屋を見つけるとワンカップの日本酒を二つ買って、僕に「ビール飲むか?」と訊いて、頷くと缶ビールを一本買って手渡してくれる。
立待岬の手前で、「じゃ俺はこっちへ降りるから。」と海岸へ降りて行く道を指すのでそこで別れることになる。立待岬はそこからすぐで、見下ろすと遠くに岩場にしゃがんでワンカップを呑んでいる松方の姿があった。