イプシランテの夜は、前述の通り怖い思い出ではあったのだが、同行した関連会社のＴ氏はしたたかだった。件のポルノショップで、さるＶＨＳテープを入手している。帰国後、私も回覧で見せて貰ったのだが、それは超有名だったらしいポルノ女優の処女作だった。それを知っていて購入したのか、偶々購入したのかは知らないが、おそらくは前者なのだろう。当時、税関でその手の物を日本に持ち込む際には入念な入国審査を受け、日本では認可されないような物を持ち込もうとしていた事が発覚すると、すぐさま没収される筈だった。しかしＴ氏は購入したＶＨＳカセットを分解してテープ部分のみを取出し、そこだけをスーツケースの奥に忍ばせて、日本の戻ってから別のテープの筐体を用いて復活させたとのことだった。勿論、これはＴ氏個人の発想によるものではなく、Ｔ氏が所属していた会社に代々伝わっていたらしい海外出張マニュアルの伝承によるものだったらしい。それを後日聞いて、私も舌を巻いた。私はと言えば、その日はトイレでの事にビビッて、レジ付近にあった雑誌を２冊ほど、
帰国後の社内回覧用に中身も充分確かめずに買い求めたに過ぎなかったのだ。
