香港出発の朝は雨だった。高層ホテルの部屋の窓は雨粒でけぶっていて、海の向こう側の九龍の海岸がぼやけて見えていた。
飛行場まで移動してタキシーングで離陸を待つ際に、何となく朝の雨(Early Morning Rain)という歌を思い出していた。日本ではフォークソングで一世を風靡したPPM(Peter Paul & Mary)というグループの曲としてヒットした。ボブ・ディランやエルヴィス・プレスリーもカバーしたゴードン・ライトフットという人の詩だ。雨、飛行場、ボーイング707、9番滑走路、そんな言葉の断片が、これから旅行を終わろうとする私の旅愁を誘ったのかもしれない。載った飛行機は大韓航空だったと日記にはあったが、全く記憶には残っていない。成田までは2、3時間のフライトだった筈だ。